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ベネチア国際映画祭で「悪は存在しない」が審査員大賞(銀獅子賞)を受賞した濱口竜介監督は、2021年に「偶然と想像」がベルリン国際映画祭で審査員グランプリ(銀熊賞)、「ドライブ・マイ・カー」がカンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞しており、世界三大映画祭で主要賞受賞という栄誉を手にした。世界に誇る日本人監督としての地位を不動のものにしたと言っても過言ではないだろう。
濱口監督はカンヌ国際映画祭のコンペティション部門に「ドライブ・マイ・カー」が選ばれた際、記者会見で「インディペンデントな形で映画作りを続けてきた自分にとって、国際映画祭は心のよりどころ。自分を発見し育ててくれた」と感謝の言葉を述べている。
濱口監督作品は、商業的に大成功を収めるというよりは、哲学的で芸術性が高いのが特徴。ほとんどの作品で脚本も監督自身が手掛けており、「偶然と想像」も会話劇が中心で、そのせりふ回しの巧みさがさえていた。撮影前に出演者が台本を読む「本読み」では、ひたすら無感情で読ませることも演出方法として独特だ。抑揚がないため棒読みしているようにも聞こえるが、逆に演者の解釈が入り込まない分、せりふに込めた作り手の意図に思いをはせることになる。
「悪は存在しない」には、レジャー施設の開発を計画する側の人間と、自然豊かな村に暮らす人々が登場する。一見すると自然破壊、環境問題がテーマの作品のようにもみえるが、濱口監督は「自然保護を訴える作品ではない」という。
もともと同作品は、「ドライブ・マイ・カー」の音楽を担当した石橋英子さんが、自身のライブパフォーマンスで流す映像の制作を濱口監督に依頼したのがきっかけで誕生した。作品中、木々を見上げるカメラアングルで森林の中を延々と移動する場面には、美しい音楽が流れている。
ベネチア国際映画祭の現地で開かれた記者会見で、濱口監督は「自分は全ては視覚的に考えるところから始め、それに今回の石橋さんとの調和を意識し、その間に自然がある」と説明。
「その自然に人間を置くと必然的に環境問題という言葉が出てくるが、それは大きな問題というより日常的な問題で、その解決には対話が必要だが、しかし今の社会は対話を尊重しておらず、それを映画にした」と語っていた。